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粒子径と付着性の関係

細かくなると、どうして付着しやすくなる?

固体はそのサイズが小さくなるにつれ、付着性が強くなっていく傾向があります。

これは一見おかしな現象を引き起こします。
それを紹介するために、まず当たり前、と思われる現象から紹介しましょう。
例えば石や砂をバケツに詰めて運ぶことを考えてみます。

同じ形と大きさを持つバケツを2個用意します。それぞれのバケツに次の2種類の条件で石か砂を詰めたとします。
(1) 5cmの石ころ
(2) 1mmの砂粒

なお、簡単のために以下の条件を仮定します。
入れ方 :一定の高さから、一定の速度で流し入れるようにしてバケツに入れるとします。
     バケツのふちから零れ落ちるくらいまで入れてから、できるだけ水平になるように擦切ります。
材質  :石ころも砂粒も同じ材質とします(真密度、化学組成が同じ)。
表面状態:水分や静電気の影響は無視できるとします。
大きさ :5cmあるいは1mm以外の大きさの石または砂粒は存在しないとします。
形状  :川の中流域にあるような状態の石(球に近いが不定形)。

2つのバケツは(2)の方が重くなります。
理由は簡単ですが、一応解説しておきましょう。
石ころは一個一個は重いのですが、石ころを詰めたものでは不定形のため、隙間が多くなります。
一方、砂粒だと一つずつは小さいため軽いのですが、隙間が小さくなりますので、結果として重くなります。

さて、たくさん運ぶためには隙間を詰める必要があります。
そのためには扁平な粒子にする、直方体にしてきれいに積み重ねる、という方法を考えることができます。
前者は扁平になる材料の方が少ない(金属や雲母など)、後者は工業としての生産を考えるとほぼ不可能、といった問題があります。
また不定形ですと、角が引っ掛かって充填されにくくなります。
そこで、一般的には球形の粒子にして、引っ掛かりをなくす、といった方法が良く用いられます。
ただし球形であっても一種類の粒子径しかない場合、最密充填できる量は決まっていて、隙間の最小値は約26%です。
たとえば500mlのペットボトルにガラスビーズ等の球形で均一な大きさの粒子を満杯に入れても、370ml分しか入らない(残りは空気)ということになります。

なおこの数値は、高校の物理で習う、太陽系の天体の運動法則(ケプラーの法則)を提唱したヨハネス・ケプラーが予想した数値であり、ケプラー予想と呼ばれています。
ちなみにこれを完全に証明するのにざっと400年かかり(1998年に99%証明し、2014年に完全に証明終了)、しかもそれはコンピュータを使ってあらゆる個々のケースを調べつくすという方法でした。

閑話休題。
さて、運ぶのであればそんなに詰める必要はないだろう、と思われるかもしれませんので、日常生活に関連した切実な充填問題を挙げてみましょう。

例えばリチウムイオン電池では、充電すると負極材料である黒鉛などの粒子にリチウムイオンが吸蔵されます。つまり一般的には、負極材料が多ければ多いほどリチウムイオンをたくさん吸蔵できますので、長時間使えるようになります(容量が増える)。
問題は電池の大きさは通常決まっている(例えばA3サイズ)、あるいは小さければ小さいほど使いやすい(電気自動車の車内レイアウトの自由度が上がる)、という事実です。
このため、できるだけたくさんの粒子を一定堆積の中に詰めることが、一回の充電で長く使える、ことに直結します。
(もちろんこれ以外にも、材料自身に対する工夫、粒子に対する他の工夫は必要です。
後者については二次電池負極材料 黒鉛のページをご覧ください)

ここまではイントロで、いよいよ本題に入ります。
上の考え方を突き詰めると、大きな粉の間の隙間をつめるために、その隙間を詰めるくらいの大きさの粉を用意し、その粉を詰めることによって生じるより小さな隙間を、さらに小さな粉で埋めて、ということを繰り返すと100%に近い充填物を得ることができる、と考えることができます。
現実には、粒子の最大の大きさが決まっている場合が多く(容器に入れる場合はその大きさ、膜にする場合は膜厚)間を充填すべき粒子の起き差は数μmや、其れよりも小さくなることは珍しくありません。
粉の不思議なところは、

粉の大きさを細かくして10μmを切るくらいになると球形粒子であっても、詰まりにくくなる、
ということです。

この理由は、粒子に作用する付着力が充填を妨げるからです。

こう書くと、粒子は小さくなると付着力が大きくなるのか、と思われるかもしれませんがそれは違います。
粒子にはさまざまな力が作用しています。特に粒子が二つ以上あると、粒子間にも力が作用します。
詳しいことは成書に譲りますが、粒子の付着に関係する力として、以下の四つの力が知られています。

1. 重力
2. 静電気力
3. 液架橋力(場合によっては固体架橋力)
4. van der Waals(ファン・デル・ ワールス)力

たとえば粒子が垂直の壁に付着する場合を考えてみます。
この四つの力のバランスで、壁に付着するかどうか、どの程度の大きさの力で付着するか=引き離すためにはどれだけの力が必要になるか、が決まります。
一つずつ見ていきます。具体的な大きさの計算はこの後で。


重力

粒子を壁から引き離す(落そうとする)力になりますので、付着させないようにする力になります。
この力Fgは粒子の質量に比例します。(下付きの文字は何に由来するか、あるいは何に作用するかを意味します。ここではgravitational=重力を意味します。) 力 Fgはニュートンの運動法則より、次の式で計算できます。
Fg=mg = (π/6・d3ρ)
ここでm:粒子の質量(kg)、g:重力加速度[約9.8 (m/s2)]、π:円周率 (-)、ρ:粒子の真密度(kg/m3)、d:粒子径[直径](m)です。

静電気力

壁と粒子が同符号に帯電している場合は反発しますので、粒子を壁から遠ざける力となります。
帯電している物体(粒子に限りません)が壁に近づくと、帯電していない壁でも逆符号に帯電することが知られています。これを誘電分極と呼びます。
(このため電気を通さない物質=絶縁体、のことを誘電体とも呼びます。積層セラミックスコンデンサなどはこの性質を利用して電気を貯めています)
また壁が導体であっても、絶縁されていれば同じ現象が生じます。

結果として粒子と壁は引きつけ合います。
この場合の静電気力Feは導体か誘電体かによって計算式が異なりますが、近似的に粒子径と粒子―壁間距離の比の二乗に逆比例します。
Fe∝1/(d/r)2
ここでd:距離(m)、r:粒子径(m)です。(Fの下付きのeはelectorostatic、 静電気を意味します。)
したがって粒子-壁間の距離が変わらないとき、粒子径が小さくなると、静電気力はあっという間に(粒径が半分だと1/4に、1/10になると静電気力は1/100になります)小さくなります。

液架橋力

液体が粒子と他の物体(この場合は壁)の間に存在すると、液体が橋のような形になって橋の両端にある物体をひきつけあう力のことです。
ちなみに通常の大気環境下では粒子表面には微量の水分が常に存在していますので、乾いている粉体でもこの力は作用しています。
液架橋力Fl(lはliquid bridge 液架橋を意味します)を表すために、多くのモデルが提案されています。
もっとも簡単なモデルでは液架橋力Flの近似値は、液架橋部分の体積の1/4乗と、粒子の半径の1/4乗に比例し、表面張力に比例します。
なお液架橋の体積は粒子の液に対する濡れ性によって変化します。

van der Waals力

電気的に中性である物質であっても、他の物体や電界の影響によって、物質表面に瞬間的に生じる電気双極子の間に働く力があります。もともとは分子間に作用する力として考え出された力です。
球と平面の間に働くvan der Waals力 Fw(wはWaalsのw。なお球と球、平面と平面では式の形が変わります)は、距離の二乗に反比例し、粒子の大きさ(直径)に比例します。
ただしその比例定数は極めて小さく、10のマイナス20乗程度(10-20。0.0--省略---01で、小数点以下のゼロの個数が19個あります。なおこの場合、比例定数の単位はエネルギーの単位であるジュールです。)ですので、非常に小さな力であることがわかります。


さて一般的に粒子が小さくなると、上の全ての力は小さくなっていきます。
したがって粒子が小さくなると付着力が大きくなる、という表現は正しくありません。
この4つの力が粒径によってどのように小さくなっているのかをグラフで示します。



グラフの縦軸の単位はNと書かれており、ニュートンと読よみます。(万有引力の法則で有名なあのニュートンにちなんで名前が付けられました)

さて、おさらいです。

  • 引き離そうとする力:Fg、粒子と壁が同符号の場合のFe
  • 付着させる力:異符号の場合のFe、Fl、Fw

グラフを見ると、FgとFeの勾配はFlやFwの勾配よりも急であることがわかります。つまり、粒子径が小さくなるほど、これらの力の差はますます大きくなります。したがって、付着させる力≧引き離そうとする力、か、付着させる力≫引き離そうとする力
となりますので、粒子が小さくなると相対的に付着性が高くなることになります。


補足:力と運動方程式
1Nとは1kgの質量をもつ物体を1メートル毎秒毎秒 (m/s2) の加速度を生じさせる力、と定義されています。
加速度を生じさせる、というのがややこしいのですが、ニュートンの運動方程式を見るとそうなっています。
F=ma、すなわち力とは質量に加速度をかけたものです。
比例定数がなくすっきりした形の式になっていますが、それは比例定数が1になるように、上に書いたように単位を調節したからです。

ちなみにニュートンによる力学研究の成果を表した著書、Philosophia Naturalis Principia Mathematica(プリンキピアと略されます)には、この式は載っていません。レオンハルト・オイラーにより、この形に定式化されました。ちなみにこのオイラーは、オイラーの公式 e(iθ)=cosθ+ i・sinθ、そこから導かれる数学史上最も美しいといわれる等式、e(iπ)=-1をはじめとし、数学物理の分野で多大な業績を残しています。ここでeは自然対数の底、iは虚数単位です。